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『人間の叡智』佐藤優

■人間の叡智
(著者:佐藤 優 出版:文藝春秋 発行:2012年7月20日 価格:858円)



元・外務省主任分析官として有名な佐藤優さんが、2012年に書き下ろしたものです。

過去に書かれた世界や日本の未来予測が、実際に当たっていたかどうか。見込み違いがあったならばどこに落とし穴があったのか。人気作家が数年前に記した国家論を読み返すのは何かと面白く感じます。

著者は「新・帝国主義」の台頭を予測しています。

従来の「帝国主義」は、自国の利益を最優先に、戦争という手段も辞さず、植民地を拡大します。著者の言う「新・帝国主義」は、大国間の戦争は回避し、話し合いで利害調整を行いますが、自国の利益を一方的に主張する点は同じです。相手国が怯み、国際社会も沈黙するならば、躊躇なく自国の利益を拡大していきます。

明言はしていませんが、著者は中国を念頭に置いていると思われます。

実際、現在の中国は海洋立国を標榜し、南シナ海を中心とした周辺の海へお構いなしに進出しています。『世界の経済ニュースがザックリわかる本』(ロム・インターナショナル著)では、中国が北極海の領有権まで主張していると言います。北極海と隣接していないにも関わらず、強引に割り込んでくる姿勢はまさに「新・帝国主義」と言えるでしょう。14億人以上の国民を養うための食料や資源を確保するためには、なりふり構っていられないのかもしれません。

プーチン大統領を筆頭としたロシアも「新・帝国主義」の代表です。著者が詳しい北方領土も本書で登場しますが、自国の利益を最優先にするロシアの根本思想がある限り、解決にはまだまだ時間がかかりそうです。ちなみに、ロシアは地球温暖化を歓迎していると著者は推測しています(P116)。北極海の氷が解けて、天然ガスなどが採掘しやすくなれば自国に有利に働くためです。

その他、中東問題や核問題を含め、2012年時点の世界を以下のように総括しています。

各国が自国の利益をむきだしに帝国主義の論理で行動し、そこにゲームのルールがわかっていない中華帝国や、ハルマゲドンを信じているペルシャ帝国が加わっているのが、今、私たちが生きている世界です(P124)。

この予測は概ね当たっているのではないでしょうか。2020年現在、トランプ大統領はアメリカ第一主義を公言していますし、中国の利権拡大、ロシアによるクリミアの併合(2014年)など、世界は「新・帝国主義」に奔走していると言えます。

このような世界情勢を踏まえ、日本はどう生き延びていくべきか。

個人レベルだと『資本論』を初めとした古典に親しむことや、読書人階級を再生することと著者は説明します。この部分がどうも分かりにくい。日本人の教養レベルを高めることで、経済第一主義を食い止めようという主張は分からなくもないですが、国レベルの生き残り戦略としては論理の飛躍が大きいと感じます。

読書人階級のトップ層にいる著者ならではの視点で、世界情勢を綴った本書は読みごたえがあります。言いたいことを散発的に述べており、全体的な統一感が弱く読者の記憶に残りにくい面はあると思いますが、国家の在り方を考える上では有益な本だと思います。

 ゆーたんお勧め度 ★★★☆☆

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更新楽しみにしてます!

Re: タイトルなし

>久木山誉紀滝さん
コメントありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
プロフィール

ゆーたん

Author:ゆーたん
京都府在住。大学院では磁性物理学を専攻し、現在は一般企業の技術職に従事しています。ピアノ演奏が何よりの趣味でしたが、最近は忙しくなかなか時間が作れません。空き時間に色々な本を読んで、様々な場所へでかけ、個性的な人たちと出会い意見を交わすのが今後の楽しみです。

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